心を豊かにする食文化の提供を、そして、すべての人においしい笑顔を。

 当社が運営している飲食店では、「自然農」という農法を取り入れているNPO法人ここかまどが作るお野菜を積極的に使用している。

 東京都八王子市の、のどかな田園風景が広がる田畑一帯。数人の若者達が、せっせと畑仕事をしている。それは、ここかまどに入所している障がいを持つ若者たちの仕事。
 支援員は、板垣さんと石橋さん。日焼けした褐色の肌から時折見える笑顔が優しい。

 「自然農」と「有機栽培」と、「無農薬栽培」は違う。
「有機栽培」は12種の農薬は使用してもよい。「無農薬」は、周りに幹線道路がない場所に限られた表現だそうだ。

  「自然農」とは、危険性が高いといわれている動物性堆肥を使用しない代わりに、栽培している野菜らを、そのまま土と一緒に耕し肥料にした「緑肥」や、雑草(クローバー・燕麦)などを、自然に腐熟させた「雑草堆肥」を栄養分にして、微生物を増やしながら育てる、名の通り自然のままの農法だ。 もちろん、農薬は使用しない。(「無農薬」とは言わず、「農薬不使用」という。)  

 虫がついてしまうイメージがあると思うが、実は意外と少ない。かえって有機栽培の方が虫がついてしまうという。広くみれば大量に発生していそうな虫も、雑草があるおかげでそれぞれ分散している。

 畑の姿は、緑〃しているラインが通路だ。うねとうねの間の「通路」に堆肥となる雑草(クローバー)の種を撒き、シーズンが終わると、今度はその通路を耕してうねにし、うねだったところにまたクローバーの種を撒いて通路にする、を繰り返す。なぜ、クローバーなのか。それは、地面を隠すように生えるので、他の大きな雑草が生えないからだそうだ。

 じっくりと蓄えられた養分で作られる野菜は味が濃い。成長には、通常の1.5~2倍もの時間がかかる。形も様々。違いは食べてみるとよくわかる。畑から採れたての人参を川の水で洗い、皮のままかじると、味わったことのない新しい味に出会い、またその香りは、まるで果物系の香水が、風によって鼻元を過ぎたような強い香りだった。

 我々は、野菜作りの大変さを、少ない経験ではあるが、わかっているつもりだ。 手間も暇もかかる並大抵の仕事ではないからこそ、時短で栽培出来る技術が進み、我々の食卓に安定して提供される野菜たち。ただ、それらが我々が託す食の未来に対し、必ずしも「安心・安全」だと言い難いのではないだろうか。我々は食の提供者として、出来る限り、「安心・安全」な食材を選択使用する立場であり、また使命でもある。

 当社の未来図の中に、福祉事業と、我々飲食業がコラボして、循環型の社会貢献を実現するという展望がある。福祉施設である、「ここかまど」の若者達が作る「自然農」による野菜作りは、手間も時間もかかり、価格も安くはないが、我々がこの野菜を使う理由があるのだ。

 梅雨の晴れ間のとある日。
 掘り起こされたじゃがいもについた土を、丁寧に撫でるようにとりはらう姿。慣れた手でスコップを握る姿。黙々と草むしりに没頭する姿。 一員は、時折、休憩しては談笑し、また作業に取り組んでいた。

 これからも、安心安全な野菜の提供のため、自然農で作られた野菜を積極的に使用し、福祉に貢献したいと考えている。